令和4年に「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」が策定され、部活動を地域クラブに移行する部活動の地域移行の方針が出されました。国としては、令和5年度から令和7年度を改革推進期間として、まずは休日の部活動から地域移行を進めていきたいとしています。部活動の地域移行が始まった背景には、教育現場での顧問の先生方の休日指導の負担を軽減することや、少子化により学校単位での部活動人数を確保することが難しいといった理由があります。
スポーツ庁では、省庁や各県のガイドラインや取組事例をまとめています。
「地域移行」とは、簡単に言えば部活動を「学校単位から地域単位の取り組み」に移行することです。
例えば、○○中学サッカー部ではなく○○地域サッカークラブで活動することです。これを「運営主体の学校からの移行」つまり「部活動の地域移行」と呼んでいるのです。
一方「地域連携」とは、運営主体が学校のまま、地域の指導者を起用するなど地域と連携することです。
地域移行については、国や自治体の指針としても取組を進めるとされていますが、各学校や地域の問題などもあり、すぐに部活動の地域移行が実現できる訳でもありません。例えば、学校単位の部活動の代替となる地域クラブ等がないなどと言った課題が多く存在します。そこで段階的に、今までと同じく学校が部活動の運営主体となり、複数の学校との合同部活動の実施や、指導者を地域の人材(部活動指導員など)に求める事なども国は想定しています。これを部活動の「地域連携」と言います。
つまり、運営主体が学校であるかないかによって、それぞれ「地域移行」「地域連携」と呼んでいるのです。
地域移行の効果と課題点
地域移行には見込まれている効果もあれば、実証研究で指摘されている課題もあります。以下に効果と課題を整理します。
4つの効果
①生徒が自分の希望する活動に参加できる
少子化や活動の多様化により「入部したい部がない」「部員が少なくて練習ができない・試合に出られない」等、学校側の部活環境により生徒の希望が必ずしも反映されないケースが多く存在します。地域移行のメリットとして、生徒の母数が増える事や、学校単位では指導者の確保が難しい部活動に外部人材を登用する事が可能になる等、結果として生徒の部活動の選択の幅が広がる効果が期待できます。
②専門的な指導を受けられるようになる
学校外部からの人材を登用できることで、特に専門的指導者人材を確保しやすくなる事が考えられます。競技や分野に特化した専門的知見を持った人材が指導することによって、生徒の満足度、競技・技術レベルの向上などの効果が期待できます。
③教員の負担が減る
部活動顧問については、例えば休日の練習や試合の引率などで拘束時間が長くなりがちな事や、自身の専門外分野の指導を行う事による負担感を減らす効果が期待できます。
④地域活性につながる
地域移行により、例えば、学校外の地域住民などと広く関わりながら活動することで、地域世代間の交流などが生まれ地域が活性化する効果が見込まれます。地域部活動の指導者には、地域の専門人材などを広く活用することが求められますが、例えば美術部における地元の芸術家の登用など、地域人材の活用と生徒への高度専門分野教育の両立などが見込まれます。
3つの課題点
①受け皿となる地域クラブ・指導者の不足
地域の置かれた状況により、学校部活動すべてに受け皿となる地域クラブや団体があるとは限りません。さらには、地域クラブ側も運営や指導の人員・財政的負担があり受け入れが難しいケースも考えられます。つまり、地域固有の状況やリソースを考慮した形で地域移行(地域連携)を進める事が必要となります。
②生徒の安全面問題
地域クラブに移行することで、例えば「勝利至上主義」による過度な練習の増加や指導者による「体罰」「パワハラ」などの暴力問題が懸念されています。懸念を払しょくし、生徒たちの健全な部活動環境を守るためにも、例えば部活指導員など公的な研修と認定を受けた人材の登用が望ましいと言えます。
③子どもの体験格差(生徒家庭における所得格差)
地域移行が進むと「月謝制」になるケースが多く、その場合学校での部活動よりも保護者の金銭的負担が増える事が予想されます。その場合、子どもの体験格差により地域部活動への参加が難しくなる生徒が出てくる懸念があります。
これは「保護者への金銭的負担増=金銭的に余裕がない家庭の生徒は地域クラブに参加できない」となり、かえって生徒から体験の機会を奪ってしまうことにつながりかねません。こうした問題を生み出さないためには、部活動の地域移行後の運営は学校部活動と大きな経済負担の乖離がないこと等が求められます。
部活動地域移行・連携のメリットとデメリットについては、コチラでも詳しく紹介されています。
寺子屋朝日より(2023.06.01)
部活動の地域移行とは? 進む背景や、メリットとデメリットを紹介│寺子屋朝日 for Teachers (asahi.com)
地域移行の様々なパターン
地域移行の進め方は、地域の生徒数の増減傾向、学校内・外の指導者の有無、地域クラブの有無など様々な要因が関わる為、各学校・自治体によって様々です。
活動場所の確保、学校や保護者への連絡、指導者の確保、誰がどのような役割を担うのか、等々…ケースバイケースにより最適な運営形態は変わります。
指導者の確保では、公認スポーツ指導者、元プロ選手、保護者、大学生など「地域の指導者」への依頼も、地域移行では重要です。
ここでは、先行の実証研究(運動部活動の地域移行等に関する実践研究事例集)をもとに、いくつかのモデルケースをご紹介します。また、今後は文化部の地域移行のために文化芸術団体との連携も見込まれます。
①地域団体・人材活用型
市区町村が運営事務局となり、地域の団体・指導者と連携するケース。団体や指導者への協力依頼、活動場所の利用調整、学校と地域団体の連絡調整等を行う。
②任意団体設立型
一般社団法人や協議会からなる任意団体を教育委員会が創設し運営するケース。市区町村と団体(運営事務局)は連携し、活動場所の利用、指導者・学校との連絡などの調整を行う。運営事務局は地域の指導者を派遣する。
③競技団体連携型
市区町村が運営事務局となり競技団体と連携するケース。運営事務局は活動場所の利用、スケジュール管理、学校と団体の連絡調整を行う。一方、競技団体は指導者を確保し学校に配属するなど、役割を明確に分けて連携する。
④総合型地域スポーツクラブ運営型
総合型地域スポーツクラブが運営事務局として地域・学校と連携するケース。運営事務局は指導者の確保や配属、学校との連絡、活動場所の利用調整を行う。
⑤体育・スポーツ協会運営型
体育・スポーツ協会が運営事務局として地域・学校と連携するケース。活動場所の利用、指導者・学校との連絡などの調整を行う。運営事務局は地域の指導者を派遣する。
⑥民間事業者運営型
民間事業者が運営事務局として地域・学校と連携し、指導者の確保や配属、学校との連絡、活動場所の利用調整などを行う。